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ニューヨークからの手紙 −9− 大都市の停電で思うこと
“大きな幸福に通じる大きな心” 8月14日にアメリカ東部の一部が停電になりました。この時、ニューヨークでは大きな事故や事件は何も起こりませんでした。このことをメディアが大きく取り上げました。 それもそのはず、大都市が停電になり、夜を迎えたらどうなるか、想像してみてください。1977年のニューヨーク大停電の時は、商店が壊され商品を盗まれる被害が続発し、住宅も襲われ、かなりの被害がありました。防犯ベルも鳴らず、警察もこの混乱を押さえることができませんでした。 では、なぜ今回、77年の時のような事件が起きなかったのでしょうか? メディアもいろいろ分析し、報道していました。「2年前、悲惨なテロの経験をしたニューヨーカーに突発災害への心構えができていたから」とか「警察の対応が良かった」等々。 何が本当の理由かはわかりませんが、突然起こった停電騒ぎ、交通機関はマヒし、数時間後には町中が真っ暗になり、不安な夜を迎える。そんな状況の中でニューヨーカーが協力し合い無事故で乗り越えようと努力した。そういう思いにみんながなれた。素敵な話じゃないですか。 今、世界中で毎日多くの人が傷つけ合い、殺し合っています。もうこんなニュースは聞きたくないと思っている方も少なくはないでしょう。助け合うのも殺し合うのも同じ人間。マイナスかプラスか、破壊か建設か、どちらの行動をとるか、決めるのは人間の心です。僕は心理学者でも哲学者でもないので偉そうな話をするつもりはありませんが、どんな状況にあってもプラス志向の心を持てる人間になっていきたいものです。 5年前、ロサンゼルスに行った際、ナチスドイツによるユダヤ人虐殺の歴史を展示している人権擁護団体サイモン・ウィーゼンタール・センターを訪ね、ユダヤ人の老婦人からホロコーストの体験を聞く機会がありました。彼女はナチスに両親、妹とともに捕らわれ、自分だけが生き残ったという体験を語ってくれました。それは、悲惨で悲しみとともに怒りさえこみ上げてくるほどのストーリーでした。 そして彼女が最後に語ったことは、 「私は二度とホロコーストのような悲惨な歴史を繰り返さないためにも、世界中を回り私自身の体験を語っていきたい。それとともに、当時600万人ものユダヤ人が虐殺されましたが、ユダヤ人以外で、ユダヤ人をかくまったり助けたりした人たちも、何百万人も殺されているのです。私はいつも自分に問いかけています。もし、見ず知らずの人から助けを求められた時、自分の命をかけてまでその人を守れるだろうか、と。私はそういう人になりたい。また、そういう人が増えない限り世界は平和になりません」。 まったくそのとおりです。もちろん口で言うほど簡単なことではないでしょう。しかし、僕は彼女の話を聞き、そういう強い心を持つ人になりたい、またまわりの人たちにもそうなってほしいと思いました。 先進国で育った我われは、経済的、物質的、社会的地位を人より多く得ることで幸福だと思うようになっているのではないでしょうか。それよりも強く大きな心を持つことのほうが、もっと大きな幸福を感じられるように思います。 カンボジアの難民キャンプで仕事をしていた方から聞いた話ですが、寄付で集められた数少ないオモチャを子供たちがけんかもしないで交代で使い、楽しそうに遊んでいたそうです。先進国の指導者と呼ばれる人たちには、この子供たちの心を学んでほしいものです。 この連載も最終回となりました。僕がニューヨークの日々の中で感じたこと、考えたことを思いつくままに書きましたが、皆さんにも何かを感じて頂けたらうれしいです。それでは、またいつかお目にかかりましょう。 (毎日新聞社点字毎日2003年1月9日掲載。禁無断転載) |